FM方式の雑音は受信機出力においては三角雑音特性を示し、音声伝送帯域の高域ほど改善度か減少するので、送信側であらかじめ高域を強調して変調し、
すなわちプリエンファシスを行って、受信機側でディフェンファシスにより高域を減衰させ、総合で平たん特性とする。一般のプログラムは高域
のエネルギー分布は少なく、プリエンファシスを行っても、変調度が全域にわたり一定となり過変調をすることのないようにエンファシス量を規定して
いる。
エンファシスの時定数は改善効果や変調度等より決められるが、米国のFM放送及びTVの音声、日本のTV音声は、75μsec、欧州と日本のFM放送は
50μsecである。
エンファシスの時定数をτとし、振幅特性が3dβ変化する角周波数をωoとすれば
エンファシスの周波数特性F(ωP)は
ディフェンファシスの場合F(ωd)は
となる。この特性を時定数が50μsecと75μsecについて図示したのが図1である。
次に受信する場合に、ディフェンファシスによって雑音が改善される場合を考えてみると、ディフェンファシスを行ったAM方式のS/Nは
一般に高周波数の瞬時電流をι、最大振幅をΙ、角速度をω、位相角をφとすれば、ιは次式で表し得る。
ι=Ιsin(ωt+φ)
ここで
ωとφが一定でΙが変化すれば・・・振幅変調(AM)
Ιとφが一定でωが変化すれば・・・周波数変調(FM)
Ιとωが一定でφが変化すれば・・・位相変調(PM)となる。FMでは、瞬時角周波数ωが位相角偏移の瞬時的変化の割合で、すなわちω=dφ/dtであるから
φ=∫ωdt+const
となる。これは角周波数偏移をωd、変調周波数をPmとすれば
φ=∫(ω+ωd・cosPmt)dt+const
=ωt+ωd/Pm・SinPm+φ0
となり、一定位相角 φ0だけずらせて考えれば
ι=Ιsin(ωt+ωd/Pm・SinPm)
ここで
ωd/Pm=Δω/Pm・Kf=mf・Kf
Δω:最大角周波数偏移
Kf :変調感度
mf :周波数変調指数
である。
式2はベッセル関数を用いて次のように展開することができる。
ι=I0【J0(mf)sin(ω0t)
+J1(mf){sin(ω0+Pm)t−sin(ω0−Pm)f}
+J2(mf){sin(ω0+2Pm)t+sin(ω0−2Pm)t}
+J3(mf){sin(ω0+3Pm)t−sin(ω0−3Pm)t}
+ …】
ただし方Kf=1とする。
となり、ω0を中心にしてω0土Pm,ω0土2Pm・・・ω0+nPm(n一∞)の無限の側波帯の生ずることがわかる
。
しかし側波帯の大きさはnが大となれば次第に小となり、実用的には最大周波数偏移に変調周波数を加えた帯域幅を考えれば、すなわち(変調指数+1)番目位までの側波帯を考えれば、変調信号の99%以上のエネルギーは伝送されたことになる。
ただし変調の直線牲を考慮する場合には、直線性に見合った更に多くのエネルギーを伝送する必要がある。
次にPMでは1式で位相偏移をφ¢dとすれば
φ=φ0+φd・cosPmt
であるから
ι=Isin(ωt+φd・cosPmf+φ0)
となり、一定の位相角φ0だけずらせて考えれば
ι=Isin(ωt+φd・cosPmf)
ここでφd=△φ・Kp=mp・Kp
△φ:最大位相偏移
Kp :変調感度
mp :位相変調指数
となる。
FMのときと同じように、mfの代わりにmpとしてベッセル関数に展開される。
FMとPMのちがいは、変調指数が前者ではωd/Pmと変調周波数に逆比例するが、後者ではそれに無関係で変調指数(φd)は位相偏移と同じになる。
いま双方の送信機を単一周波数で変調してこれを周波数弁別器を持った受信機で受信すれば、これを見分けることはできないが、変調周波数を変化させると、PMでは、変調周波数に比例して受信機出力が大きくなる。
PMでは、位相儲移を一定としているので、これを振る速さが早いほど瞬時周波数が大きく変わるためである。
そこでPM変調器の前に、出力振幅が変調信号周波数に逆比例する回路を置けば、変調された擬送波はFM波と全く同じになる。
図3のように、変調電圧をR・Cの積分回路に加え、RをCのリアクタンスに比べ十分大きくとっておけば、PM変調器に加わる電圧Xは、Cのリアクタンスによって周波数に逆比例した電圧となり、出力にはFM波が得られる。
帯域幅を比較すると、FMのときは、変調周波数にかかわらず大体、一定帯域内を同じような振幅で利用できるが、PMでは、変調指数が等しければ、側波帯の数が同じであるから、帯域幅は変調周波数に比例し、
高い周波数で帯域いっぱいになるようにすれば低い周波数では帯域が十分利用されないこととなり不利である。
次にφ¢dがたとえば0.2radian以下であれば
ωt=x
〉とおけば
φd・cosPmf=y
ι=Isin(x+y)=I(sinxcosy+cosxsiny)
φd≪0.2であるから
cosy=cos(φd・cosPmf)=1
Siny=Sin(φd・sinPmf)=φd・sinPmf
となり
ι=I(sinωt+cosωt・φd・sinPmf)
=Isinωt+1/2φdi{sin(ω+Pm)t-Sin(ω-Pm)t}
となり、第2項はAM波の側帯波と同じような形となり、これはAM波よりPM波を発生しうることを意味し、アームストロング変調方式はこれを利用している。
もちろん、逆の場合も可能である。
つぎに送信器について比較すると、可変容量素子でFMをすると周波数安定度を確保するには、複雑な周波数安定装置を必要とするが、PM方式は水晶が使えるので有利である。
そこで変調信号を積分してPM、等価周波数変調とする前述の方法が多く用いられている。
この方法を間接周波数変調法というのに対して、可変容量素子などで発振器の発振周波数を変化させる方式を直接周波数変調法という。
超短波FM放送波帯の一搬送波を使用するステレオ放送の方式は、古くより非常に多くの方式が調査・研究あるいは実験が行われてきた。
FM搬送波による変調方式の呼称方法として、わが国では次のごとく決められている。
たとえばXX−YYと表示する場合、最初のXXは副搬送波の変調方式を表し、YYは主搬送波の変調方式である。
ここでは、YYはFMである。
また周波数分割によるチャンネル数が2つ以上ある場合は、たとえば副搬送波の
変調方式がAMとFMの2つある場合は、F・AM−FM方式と「・」によって区別をし、時分割方式のPAM−FM方式と混同しないようにしている。
FM放送帯によるステレオ放送はモノラル放送とコンパチブルであることが必要で、モノラル受信者が聞いたとき、モノラル放送として不自然感がなく、
またモノラル放送をステレオ受信機で聞いても、モノラルとして受信できることである。
これらの条件を満たすステレオ放送方式として前述のごとく、多くの方式が考えられたが、FM放送に容易に使用できるものとしてステレオ信号の取扱い方法によって次の3つに大別することができる。
(1)和差方式
(2)時分割方式
(3)方向信号方式
和差方式
和差方式とは左右信号の和と差を作り、和信号は音声帯域内に分布する周波数成分を有し、主チャンネルとなり、差信号は副搬送波を変調して副チャンネルとなって、
主と副を合成した周波数分割信号で主搬送波をFMする方式である。
モノラル受信者は和信号だけを聞き、ステレオ受信者は副搬送波で送られてくる差信号と、和信号を再び加減することによって左右信号を得る。
和差方式によるFMステレオ方式は副搬送波の変調方式によってAM−FM方式FM−FM方式がある。
代表的なものとして前者はZenith-GE方式であり、後者はCrosby方式である。
時分割式と方向信号方式は実用上種々問題があるので、外国においてもこの2つの方式は一時保留となり、欧米および日本ではAM−FM、FM−FMいずれの方式を選ぶかが論点となり、
アメリカでは1961年6月に、わが国では1963年8月にAM−FM方式をステレオの標準方式として採用することに決められた。
AM−FM方式
図4にAM−FM方式も送信機の一例の系統図を示してある。
ステレオ信号の変調器は19kHzの水晶発振器出力より38kHzを作り、この38Hzを差信号で搬送波抑圧振幅変調する。
この場合38kHzは19kHZの単なる2倍ではなく、38kHz発振器は19kHzの信号で同期されて、各の位相関係を厳格におさえている。
この平衡変調出力は19kHzとともに(L十R)の和信号に重ね合わされて、変調バリキャップに加えられる。
図5 AM−FM方式受信機系統図
図5はAM−FM方式の受信機の系統図で周波数弁別した後は、図4のバリキャップの変調入力と同じ波形が得られるので、
ここから19kHだけとりだしてこれに同期した38kHzを作り、搬送波抑圧振幅変調波に加えて検波し、差信号(L−R)を得る。
一方弁出力に低域濾波器を通すと和信号が得られるので、(L十R)と(L−R)の両信号を再び加えまたは減ずることにより、
L信号・R信号をとりだすことができる。
このAM−FM方式の主搬送波の変調周波数のスペクトラムを図示すると、図6(a)になる。
モノラル放送のときは15kHzまでの帯域で75kHz(100%)変調であるが、ステレオ放送のときは主チャンネル信号または副チャンネル信号でそれぞれの最大変調度は67.5kHz(90%)、パイロット信号は7.5kHz(10%)偏移している。
主・副チャンネル信号が同時に存在する一般の場合には、両方の和を67.5kHzにする。
すなわち主・副パイロットを加えた波のピークが75kHzになるようにレベルセットする。
アメリカではステレオ放送の他にSCA(Subsidary Ccmmunications Authorization)補助通信業務を送信している局もあるが、図6(b)はSCAを含む場合の主変調波の変調スベクトラムである。
SCAチャンネルは67kHzの副放送波を±8kHzFMし、このFMされた波で主搬送波を土7.5kHz(10%)偏移する。
すなわちFM−FM方式である。
(SCAをステレオに加えた場合は、F・AM−FM方式と呼杯している。)
この場合SCAで10%、パイロットで10%とられるから、残りのステレオチャンネルは80%(60kHz)になる。
SCAチャンネルは帯域が59kHzから75kHzまでと決められているので、音声帯域も狭く、8kHzが限度である。AM−FM方式は、FM−FM方よりも、SCAが挿入しやすいので、方式決定の大きな要素となったものである。